福岡地方裁判所 昭和58年(ワ)2959号 判決 1984年11月12日
原告
宮本由美子
被告
小林正人
主文
一 被告は、原告に対し、金六三二万七二一六円及びこれに対する昭和五六年四月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告その余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを七分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、一六一五万七〇二四円及びこれに対する昭和五六年四月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
昭和五六年四月一〇日午後一〇時ごろ、福岡市東区西戸崎一二四番地先路上において、被告運転の小型貨物自動車(福岡四五ち二三〇〇、以下「加害車」という。)が左側に停車中の大型貨物自動車に追突し、その結果、加害車に同乗していた原告が前頭部顔面切創の傷害を負つた。
2 責任原因
被告は、次の理由により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。
(一) 飲酒のため前方注視を怠つた過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条による責任。
(二) 加害車を保有し自己のために運行の用に供していたのであるから、自賠法三条による責任。
3 損害
(一) 治療の経過
被告は、本件事故により前頭部顔面切創の傷害を負い、福岡市東区和白の阿部病院において昭和五六年四月一〇日から同年同月二七日まで一八日間の入院、同年同月二八日から同年五月二六日まで通院し、治療を受けた。
(二) 傷害に関する損害
(1) 入院雑費 一万八〇〇〇円
原告は、右傷害の治療のため、昭和五六年四月一〇日から同年同月二七日まで入院し、その間一日につき一〇〇〇円を下らない物品購入費、栄養費等の支出を余儀なくされた。
(2) 休業損害 二三万一七一〇円
女子二五歳の労働平均賃金 一四万七九〇〇円
休業日数 四七日
(一四万七九〇〇円÷三〇×四七=二三万一七一〇円)
(3) 傷害慰藉料 五〇万円
(三) 後遺障害による損害
(1) 逸失利益 一七三一万六七〇九円
女子二五歳労働者平均賃金 一七七万四八〇〇円
就労可能期間 四二年
労働能力喪失率(後遺症七級)〇・五六
ライプニツツ方式により中間利息の控除。
(一七七万四八〇〇円×〇・五六×一七・四二三二=一七三一万六七〇九円)
(2) 慰藉料 六七〇万円
(四) 弁護士費用 三〇〇万円
(五) 損害の填補
原告は、日産火災海上保険株式会社から八六〇万九三九五円の支払いを受けたので、これを右損害に充当する。
4 よつて、原告は、被告に対し、不法行為に基く損害賠償として一六一五万七〇二四円及びこれに対する不法行為日である昭和五六年四月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3のうち、(一)の事実は認め、(二)ないし(四)は争う、(五)は認める。
三 抗弁
原告は、本件事故当時、被告と恋人同志の間柄にあつた。本件事故当日、原告の実家に遊びにきていた被告が、原告の兄と飲酒しているうちに、原告の兄が煙草がないといい出したので、被告が買いに行くことになり、原告が加害車に同乗して煙草を買いに行く途中、本件事故が発生したものである。
したがつて、原告は、いわゆる好意同乗者であるから、損害額の算定に当たつては、相当の減額をなすべきである。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は認める。
第三証拠[略]
理由
一 請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、損害について判断する。
1 入院雑費
原告は、本件事故による傷害を治療するため、昭和五六年四月一〇日から同年同月二七日まで一八日間入院したことは、当事者間に争いがない。
前記一八日間の入院期間中、一日につき七〇〇円程度の入院雑費を要したであろうことは容易に推認されのるで、その額は一万二六〇〇円となる。
2 休業損害
成立に争いのない甲第一〇号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故当時被告経営のアース電気工事において事務員として稼働していたことが認められる。
原告は、当時、満二五歳の女性として、昭和四七年度賃金センサスによる二五歳の女性の平均賃金一か月一四万七九〇〇円相当の収入をあげえたであろうところ、本件事故により前記の通りの傷害のため四七日間休業を余儀なくされ、二三万一七一〇円の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。
3 逸失利益
成立に争いのない甲第一一号証の一ないし三によれば、原告は、自動車損害賠償責任保険の査定において後遺障害等級七級一二号に認定されたこと、症状固定時(昭和五六年五月二六日)において原告は二五歳であつたことが認められる。以上の事実によると、原告は二五歳から稼働可能と考えられる六七歳までの四二年間を通じて、その労働能力の五六パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。
そして、前記認定の事実によると、原告は年間一七七万四八〇〇円の収入を得ることができたものと認められるので、右の額を基礎として前記労働能力喪失割合を乗じ、同額からライプニツツ方式により中間利息を控除して、右四二年間の逸失利益を求めると、その金額は一七三一万六七〇九円(一七七万四八〇〇円×〇・五六×一七・四二三二)となる。
4 慰藉料
前記認定の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺症の程度その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は六五〇万円が相当である。
5 好意同乗
原告は、本件事故当時、被告と恋人同志の間柄であつたこと、本件事故当日、被告は、原告の実家に遊びに行き、原告の兄と飲酒しているうち、原告の兄が煙草がないといい出したので、被告運転の自動車に同乗して煙草を買いに行く途中、本件事故に遭つたものであるから、信義則上、右同乗経緯を斟酌し、いわゆる好意同乗として、右1ないし4の損害の四割を減額するのが相当である。
よつて、前記損害の合計額は一四四三万六六一一円となる。
三 損害の填補
原告が、本件事故につき、日産火災海上保険株式会社から八六〇万九三九五円の支払を受け(右事実は当事者間に争いがない。)、損害の填補を受けたことは原告の自認するところであるから右金額を前記損害額から控除すると、五八二万七二一六円となる。
四 弁護士費用
弁論の全趣旨によると、原告が昭和五八年一二月一日、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し、相当額の報酬の支払を約していることが認められるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額に鑑みると、被告に対して賠償を求め得る弁護士費用は五〇万円が相当である。
五 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し、六三二万七二一六円及び右金員に対する不法行意の日である昭和五六年四月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡村道代)